「住設・建材」業界にみるデジタル施策の特殊性と基本設計のポイント【ネクストライク192号】

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Webの普及と情報の充実にともなって、特に、住設・建材/設備機器/医療機器などのBtoB、BtoBtoC業界では、「まずは営業に来てもらって話を聞く」ではなく、「まずはWebで調べてみる」というWeb・デジタル活用スタイルが定着しています。

広告やSNS以外の、いまや、自社管理できるデジタル施策として、配信型のメルマガ(MA)、そして、受信型といえる集客サイト(ブログ式オウンドメディア)、商品説明サイト、販売支援サイト、ランディングページなどを複合的に連動させた運用事例が増しています。

今号では、BtoB、BtoBtoC業界の持つ特殊性とデジタル施策の基本設計のポイントについて特に「住設・建材」業界を例に少し、考えてみます。

1.住設・建材業界の特殊性

1)ターゲットが限定される
BtoB、BtoBtoC商品の多くは、比較的ニッチな限定市場が多く、ターゲットとなる販売関与者やエンドユーザーの数も自ずと絞られてきます。
しかし、実際には、長くて複雑な販売ルートや数多くの業種・職種が絡み、具体的なターゲットを決定するには、慎重に検討することが必要です。

例えば、住設・建材と公共業界の場合を考えてみます。
(住設・建材業界の例)
たとえば、床・壁・天井・収納・建材・
断熱材・施工材料(塗料など)の場合は、施主や事業主体や自治体といった最終ユーザーにはメーカーや商品の知識や決定権がなく、提案側・プロユーザーである設計やコンサルタント、ゼネコン、工務店・ハウスメーカー、施工会社が主なターゲットとなります。
大型物件になると、川上である設計・コンサル会社の囲い込みも大切。検討段階のコストパフォーンマンスチェック、バリューエンジニアリングがなされるため検討期間の長くなり、継続的な接点強化が重要となります。

一方、キッチンや浴室・洗面、トイレなどの水回り、インテリア建材、エクステリアなどの場合では、提案側・プロユーザーである設計事務所(非住宅の場合はコンサルタント・ゼネコンも)やハウスメーカー・工務店、専門工事店(内装店など)、インテリアコーディネーターなどの資格者よりも、特に、こだわりを持つエンドユーザー(施主)の方が、メーカー・ブランド指名権を持つようになりつつあります。

今後は、エンドユーザーを主なターゲットにし、プロユーザーへの啓蒙(専門的提案)とディーラーヘルプス機能を果たす流れになり、最終的には、現在の主流となっているプロユーザーよりも、デジタルによる恩恵を一番受けるエンドユーザーの囲い込みが企業間格差を生むと考えられます

2)認知から購買までの検討時間が長い
BtoB、BtoBtoC業界は、販売ルートが長く、さらに、複数の担当者や決裁者が関わり、認知から理解、比較検討、購買まで慎重に検討され、購入までにかかる時間が長くなります。ある製品が必要になったら、まずは担当者が性能や価格を調べた上で稟議書を上げ、上長の決裁をもらいます。金額や規模によっては、より上位の役職者の決済が必要になったり、複数の部署で複数の決裁者が関わることもあるでしょう。
例えば、住設・建材と公共業界の場合を考えてみます。

(住設・建材業界の例)
川上である設計事務所で意匠・構造の設計、時にカスタマイズ化され、その後、川下の、流通商社経由で
工務店、販工店、専門資格者などが価格や付加価値、施工の難易度について主な検討に関わり、さらに、会社内購買関係者にもアプローチしなければなりません。(非住宅の場合はコンサルタント・ゼネコンも絡みます)

3)企業としての信頼関係が不可欠
会社の信用、品質への信頼、コストの妥当性、アフターサービスやメンテナンス体制など、継続的関係づくりで信頼関係が成り立ちます。商品はもとより、人間関係も重要。非接触や働き方改革などでのコミュニケーションの質量の不足をデジタル施策で解決する必要に迫られています。

2.住設・建材業界のデジタル施策の基本設計、5つのポイント

BtoB、BtoBtoCのデジタル施策は、企業(コーポレート)サイト以外に、商品サイトやブランドサイト、集客サイト(オウンドメディア)、販売支援サイトなどがあります。では、その上で、これらのデジタル施策はどのように進めるべきか、デジタル施策の基本設計、5つのポイントについて考えてみます。

1)ターゲットを決める
いくら対象業界や企業が限られているとはいえ、競合度合いや企業の考え方(何を優先するか、どれだけ長期的に考えるか、デジタル投資など)、そして、事業責任者の判断により、企業ごとにターゲットの位置づけも異なります。実際ご相談すると、同じ業界内であっても驚くほど重点ターゲットや攻略優先順位はさまざま。実は、このターゲティング選定は極めて、最重要。今までの常識ではなく、デジタル社会に相応したビジネスモデル、例えば、BtoBから、BtoCにする、ユーザー視点で考えるなどが必要に考えます。

例えば、住設・建材との場合を考えてみます。
(住設・建材業界の例)
住設建材商品の場合は、プロユーザーのうち、川上と川下のどちらを優先するか、あるいは、中長期的な視点ではどうするのかで施策内容が変わってきます。大きくは、プロユーザーか、その先のエンドユーザー(最終購入者)のいづれかより優先するか、という問題も判断しなければなりません。いづれにしても、単に、デジタル施策と言う手法だけで判断しないで、事業戦略、事業マーケティングの視点で考えることが重要になり、それが、最終的な成果を左右することになります。

2)ターゲットに応じた集客の目的と手法を考える
広報的な目的の企業(コーポレート)サイトやブランドサイトは、企業名を検索する利害関係者やリクルーターが多く、その意味では、営業的な集客目的のサイトではありません。
商品名を検索するユーザーや見込み客が多い場合は、まず、商品サイトによって、想定されるユーザーごとに興味関心を得るコンテンツを用意。商品まわりのキーワードSEO対策を行い、次に、そのコンテンツをメルマガ(MA)、展示会・イベント、営業活動を通じて告知、集客、拡販します。
また、ネットワーク組織においては、販売ノウハウを提供する販売支援サイトを用意し集、組織力を強化します。


一方、潜在層に対する「認知・興味関心」を喚起し、顕在客に育成することを主な目的とする場合は、集客サイト(オウンドメディア)が機能します。関連キーワードを幅広く網羅して集客し、同時に、そのコンテンツをメルマガ(MA)で告知・Webなどに誘導して、次のステップである「理解・比較検討・購入」に結び付けます。予算があり、ある程度の見込み客をターゲットにするなら、リスティング広告やディスプレイ広告、ランディングページが効果的です。

例えば、住設・建材と公共業界の場合を考えてみます。
(住設・建材業界の例)
既存販売ルートや既存客
の強化だけで事業の拡大が見込めている場合は、デジタル施策の必要はあまりないかもしれません。
しかし、新規顧客を獲得したい、潜在層の顕在化や販売ルートを強化したい
(または、競合他社より弱い)場合、商品差別性が強い場合は、攻めのメルマガ・MA、ネット広告と待ち受け型の商品サイト、集客サイト(オウンドメディア)、販売支援サイトなどを複合して組み合わせて運用することで成果を出します。
施主や事業者、そして、入札コンペする自治体といったエンドユーザーは今後、企業のデジタル施策を一層、評価分析する力を持ちます。
繰り返しですが、商品認知と理解が難しく、商品差別性が少なかったり、ターゲットに理解されにくい商品上の問題点、長い販売ルート、複数の業界と業種の絡み合いを解決しなければならないわずらわしさのために、住設・建材業界は、まだまだ、他の業界よりもデジタル施策の取り組みはこれからと言えます。
(実際、ご相談すると、担当者がいなかったり、専門でなかったり、予算化や複数部署の承認に時間がかかるなど、初めてのデジタル施策の取り組みがために、着手に時間がかかるようです)

3)デジタル施策の目的に応じたコンテンツを検討する
サイトによって、コンテンツの内容が変わりますが、ここでは5つのタイプを考えてみます。
①企業(コーポレート)サイト
企業サイトは、会社案内書のWeb版。
ただし、紙媒体とは違って、読者を層別に区分して専門性の高いカテゴリーやコンテンツを提供したり動画配信、参考となるサイトリンクなど、より細かな情報を届けることが出来ます。

②商品ブランドサイト
商品ブランドサイトは、ブランドイメージアップ目的のサイト。
デザイン重視で、専門誌やオピニオンリーダーなども活用し権威性や先見性をアピールします。自社だけのコンテンツでは難しい場合は、関係の深い企業や団体とのコラボ企画運営にすることが多いようです。

③商品サイト
商品の認知~理解~比較検討~購入を目的とする商品サイト。
具体的な商品の検討を始めている見込み客が主なターゲットになります。そのため、商品の認知や理解、商品比較(他社比較)関係のコンテンツが重要になります。
また、商品サイトは、そもそも、商品について関心が高いユーザーが多く、一旦、集客したユーザーを取り逃がさない、リピートさせるだけの競合他社以上のコンテンツが必須。時に、商品まわり、納入事例まわり、イベント・セミナーの告知が欠かせません。

③販売支援サイト
販売支援サイトは、ネットワーク組織向けの販売支援サイト。
拡販を目的に、業界情報や組織店向けの教育や提案・販売ノウハウ、エンドユーザーアプローチツールなどの一部会員限定のコンテンツなどを用意します。
特に、長い販売ルートであった業種の場合は、一旦、会員店のメルアドを獲得することが出来れば、定期的に直接、詳細な商品や販売情報を届けることが出来ます。
この販売支援サイトは、組織力を強化することが目的です。
そのための研修やセミナー、販売コンテスト、キャンペーンなどの施策や成功事例、ツールなどの周知徹底(繰り返しによる刷り込み)、共有、メルマガ・MAと連動した営業活用により、最終ゴールである、提案力アップによる売り上げ増に結び付けます。
特に、長い販売ルートであった業種の場合は、一旦、会員店のメルアドを獲得することが出来れば、定期的に直接、詳細な商品や販売情報を届けることが出来ます。

④集客サイト(オウンドメディア)
集客サイト(オウンドメディア)は、潜在ユーザーを集客し顕在化させることを目的とするサイト。
潜在ユーザーが抱える疑問や不安、希望などの興味関心ごとに合わせて、コンテンツを用意します。
サイトの目的によっても変わりますが、コンテンツづくりの基本は、まず、作成しやすい、直近の見込み客である潜在向けに焦点を当てた商品への気づきや動機づけとなる商品まわり関係から始め、コンテンツの量が増えるほどに、顕在層向けコンテンツの充実を図ります。その上で、商品ページや資料請求、お問合せなどに誘導して売り上げに結びつけます。

適切なキーワードを設定してコンテンツ作成し、それを検証する中で流入数やお問合せを、毎月、引き上げる努力を継続して、当該市場における「ターゲットメディア」に育成することが目標です。
広告を必要としない定期的な集客ができ、そして、決して消えてなくなることがない会社の資産・価値となります。
確かに、コンテンツづくりには苦労はしますが、サイトに掲載することや、それをメルマガで配信すること自体は、消えることのない会社の資産になります。それだけ重要なコンテンツをつくるのだという社内理解を周知し、中長期的に取り組むことで、必ず成果を出します。
この時、短期的な流入を気にするあまり、本来の中長期t的な事業マーケティングやデジタル施策全体の目標を忘れてはなりません。

本来、サイトのコンテンツは、サイトの立ち上がり時に改めて考えるべきものではありません。今までのマーケティング施策とツールが整備されていれば、立ち上げ時のコンテンツに悩むことはありません。しかし、私たちがご相談するクライアント様の多くが、真に活用できる、マーケティング施策とツールが整備されていない事実があるよう感じています。
Webコンテンツがない、そして、記事が更新できないことは、ターゲット(検索者)の「検討の対象にすらならない」可能性があり、いわば、死んでいるサイトと言えます。

業界ごとに集客サイト(オウンドメディア)が成り立つか否か、どのようなサイトが考えられるかを研究したBtoB、BtoBtoC業界シリーズ【オウンドメディア業界研究】から、代表的な「住設・建材」業界を取り上げてみます。

参照事例は多少古いですが、基本的な考え方は変わりません。
ぜひ、企画の際は、ご参考ください。

⑤メルマガ(MA)
メルマガは、顧客情報をデータベース化し、配信することで、サイトに集客し、告知~見込み客への育成を図ります。
その時、くれぐれも、デジタル施策だけに汲々とするのではなく、事業活動としてのマーケティング施策であるという視点を忘れてはなりません。
例えば、MAの成果が出ているか否かは、単に、スコアが増えた、成約見込み客が増えた、見込みの販売店数やユーザー数のみならず、事業活動、マーケティング施策の無垢的であり、最終的なゴールでもある、販売店施策やユーザー施策上の課題、例えば、組織づくりと強化の評価として認識すべきです。
さらに、MA(マーケティングオートメーション)では、Web上のコンテンツを含むアクセス履歴をスコア管理しながら、成約見込み客を営業に送客することができます。

ここで、MAの失敗から学ぶ注意すべきことがあります。
充分なコンテンツなしにメルマガ(MA)を始めて、やがて、配信が滞たり、不定期になったり、休止したりなどして、育成や追客ができないという、そもそも無理筋な状態で失敗するケースをよく見聞きします。せめて、配信した後でも、社内にコンテンツがあるはずですし、探し方を考えたり、また、できるだけ、コンテンツ開発すべきです。そもそも、Webサイトのコンテンツ力(もっと言えば、自社施策力)を蓄えていなければ、単に、メルマガ(MA)を導入しても、必ず失敗します。売上アップという目標ならば、商品認知から理解~比較検討~お問合せに至るまでのコンテンツは必須の神器と言えます

4)定期的な対策と運用
サイト構築の専門会社は多く、デザインやコストパフォーマンスの善し悪しは、コンペなどで比較出来ますので、パートナー企業の選択に腐心することは多くはないかもしれません。しかし、定期的な対策と運用は、コンペで新しくパートナーを選び直すことは、相当な労力と手間がかかり、現実的ではありません。一度決めたパートナーとは、いわば、運命共同体。アドバイスや提言の少ない、メンテだけのパートナーでは限界。
できれば、BtoB,BtoBtoC業界(住設・建材/設備機器/医療など)とマーケティング、そして自社の置かれている立場、商品、そしてデジタル施策に詳しい専門家がパートナーだと成果を出し続けるうえで、安心かもしれません。
特に、上記の商品サイトや販売支援サイト、集客サイト(オウンドメディア)メルマガ(MA)などを複合的に連動した企画や対策・運営ノウハウが必要になるため、社内外に、マーケティングプランナーやデジタルプランナー、セールスプロモーションプランナー、エディター・編集者などのネットワークを組織化することが必須になります。

5)営業との連動
BtoB、BtoBtoCの事業マーケティングは、デジタル施策だけで完結するものはありません。売り上げ達成などの最終目標は、営業との連携が必須になります。単純に「新しいデジタル施策をやったら、うまく行く」程度にしか考えていないと、確度の低い見込みリストを大量に営業に渡すだけになり、デジタル施策全体への不信感が芽生え、結果として、営業のモチベーションが下がることが懸念されます。例えば、MAの場合は、配信リスト(リード)が少なかったり、配信頻度が少ない、見込み度を推定するコンバーションコンテンツが少ない、見込み度を測るスコアが高まらない・・そんな結果として、営業に渡す「成約アプローチ客」が少ないことになります。

デジタル施策に限りませんが、うまく運営できているときは、関係者の参加モチベーションは高いのですが、一旦結果が思わしくなく、どうしていいか分からなくなると、心が離れやすくなり、運営途中で、今のデジタル施策の在り方を疑わしく感じ、いずれはコンテンツの更新が滞ったり、モチベーションの低下がマンネを生み、また、予算や人員を削減することにもつながってしまい、結果的に、デジタル施策のみならず、事業マーケティングそのものがうまく行かない可能性もあります。
こうした事態を避けるには、目指すべき目的を明確にした上で、その達成度をわかりやすく把握できるKPIを設定することが大切です。
KPIとなるのは、獲得見込み(リード)数やお問い合わせなどの直接的な数字だけに限りません。たとえば、「認知度を高めたい」という目的を掲げた場合、企業名や製品・サービス名による指名検索がどれくらいあるか(どれぐらい増えたか)を把握することで達成度が測れます。成果を目に見える形で捉えることも、デジタル施策の推進にあたって重要になります。

これまで、BtoB、BtoBtoC、特に、住設・建材業界のデジタル施策について考えましたが、決して簡単ではありません。
Web構築、システムの採用というデジタルのハードだけを気にするのではなく、マーケティング施策の中で、デジタル施策をどう運用し、どう取り組むのかという事業マーケティングの大きな絵を追求することが、関係者のモチベーションを維持強化する上でも重要に思います。

 

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